レイトレ本書評10連発
このポストはレイトレ合宿2アドベントカレンダーの10回目です。
皆さん、レイとばしてますか?なんと残り時間も12日というわずかなものになってきました。あれほど沢山時間はあったのに、いったいどこへ消えてしまったのでしょうか?それは誰にもわかりません。
さて、今から本を読んだってもう遅いかもしれません。しかし、例え合宿が終わっても日々は続いていき、レイは飛び、CGはレンダリングされるのです。今回の合宿で得た経験を生かし、さらなる飛躍を遂げるためにも温故知新、過去の知に触れることは重要なことです。そこで、今回は独断と偏見で選びだした10冊のレイトレ(関係)本について書評を加えていきたいと思います。これからレイトレの本をいっちょ買おうと思っている人の参考になればと思います。
CG Magic:レンダリング
一冊目はCG Magicです。この本は倉地さんという長年CG業界でテクニカルなライターをされていた方が書かれた本です。日本のレイトレ本業界は惨憺たる有様であり、レイを飛ばしてるだけ、それも業界の主流の手法は無視、みたいな感じなのですが、この本は基本的にアカデミックなCG業界における手法をきちんと押さえてある「日本語の」書籍です。
扱っている内容も、基本的なRadiometryの話からレンダリング方程式、GPU、ボリュームレンダリング、表面化散乱といった幅広い内容に触れています。また、イメージベースレンダリングやHDRに関するあれこれ、さらにはBRDFの測定やPrecomputed Radiance Trasnferにまで話は及んでいます。
あくまでサーベイ的内容なので個々の手法を詳しく知るにはさらに各文献を当たる必要がありますが、レイトレをはじめレンダリングに関する諸技法の概略をつかむにはかなり良い本だといえます。日本語なので英語はちょっと・・・という人にもぴったりです。
フォトンマッピング
- 作者: Henrik Wann Jensen,苗村健
- 出版社/メーカー: オーム社
- 発売日: 2002/07
- メディア: 単行本
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これも日本語の本です。青本とか呼ばれてるとかいないとか。いわゆるグローバルイルミネーションも含んだまっとうな物理ベースレンダリングについて書かれた本で、フォトンマッピングの開発者であるJensen先生の書かれたフォトンマッピングの解説書です。
Jensen先生が書かれただけのことはあり、内容は非常に充実しています。これさえあればフォトンマッピングの実装はまったく容易なものになるでしょう。巻末にはコードまで付属しています。この本を読んでフォトンマッピングを実装したという日本の人はとても多いようです。一方、フォトンマッピング本であるが故にフォトンマッピング以外のレンダリング手法、たとえばパストレーシングや双方向パストレーシング、メトロポリスライトトランスポートといった手法については軽く触れる程度でほとんど解説らしい解説はなく、他の文献を当たる必要があるかもしれません。また、BVHのようなレイトレの加速構造をはじめ、「レンダラを書く」という点のサポートはあまりありません。
出たのが2002年ということで近年のフォトンマッピング系手法の進化には対応できていませんが、それでも基礎中の基礎であるオリジナルの手法を学ぶのには非常に役に立つと思います。日本語で書かれたグローバルイルミネーションアルゴリズムの本としての価値も高いと言えます。
Ray Tracing from the Ground Up
Ray Tracing from the Ground Up
- 作者: Kevin Suffern
- 出版社/メーカー: A K Peters/CRC Press
- 発売日: 2007/09/06
- メディア: ハードカバー
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続きまして金魚鉢の本で、英語の本です。レイトレーシングによるレンダラに関する解説を、一章につき一つトピックをとりあげてソースコードを交えて行う、という趣旨の本になっていて、幅広いトピックを扱っています。
アンチエイリアスからサンプリングの方法、DoFから光の物理、アンビエントオクルージョン、エリアライト、空間分割、グローバルイルミネーション、プロシージャルテクスチャなどなど、思いつくことは全部入れました、という感じです。
レンダラの設計やトピックの選定を始め、どうも(後で取り上げる)"Physically Based Rendering"を平易にしたバージョンという印象があります。レイトレはじめたばっかりで、ちょっと進んだテクニックや知識を得たい!という人には非常におすすめの一冊です。コードと解説が近いのがうれしいですね。また、近いうちに第二版が出るそうです。
Advanced Global Illumination
Advanced Global Illumination, Second Edition
- 作者: Philip Dutre,Philippe Bekaert,Kavita Bala
- 出版社/メーカー: AK Peters
- 発売日: 2006/09/25
- メディア: Kindle版
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名前の通り、グローバルイルミネーションに関する先進的なアルゴリズムを取り上げた本・・・かと思いきや前半は非常に丁寧にグローバルイルミネーションの原理、理論や方法論を解説してある本です。後半は最先端のグローバルイルミネーションアルゴリズムの解説、ということになっています。
とにかく前半部の価値が非常に高い本です。レイトレ本は世の中にたくさんありますが、Radiometryやレンダリング方程式のような基礎中の基礎、みたいなことについて細かく詳しく分かりやすく解説されている本は案外少ないものです。この本は、この点については非常に優れており、私もレイを飛ばし始めたころは貪るように読んだものです。練習問題なんかもついているので解いてみると良い勉強になります。一方、後半部は最先端といいつつやや昔の本であるがゆえに今となっては若干古くなってしまっている部分も否めないでしょう。(それでも有用度は高いですが)
少し進んだ物理的なレンダリングの基礎をやりたい人向けですね。
Realistic Ray Tracing
Realistic Ray Tracing, Second Edition
- 作者: Peter Shirley,R. Keith Morley
- 出版社/メーカー: A K Peters/CRC Press
- 発売日: 2008/12/19
- メディア: ペーパーバック
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基本的にRay Tracing from Ground Upと同じような感じの本です。レンダラのコード解説を、一章につき一トピックくらいの感じでおこなっていきます。この本はBounding Volume Hierarchyについても触れてるのでそこだけ違いますが、まあGround Upを買っておけば間違いないんじゃないかという気もします。ページ数はこっちの方が少ないので、とにかく素早くいろんなことを知りたい!というときはこっちを買って一気に読むと結構知識が増えると思います。
Physically Based Rendering: From Theory to Implementation
Physically Based Rendering, Second Edition: From Theory To Implementation
- 作者: Matt Pharr,Greg Humphreys
- 出版社/メーカー: Morgan Kaufmann
- 発売日: 2010/07/12
- メディア: ハードカバー
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出ました。超有名なレイトレ本、通称PBR本です。PBRTとかも呼ばれてます(PBRTはこの本とセットのレンダラの方であるという説もあります)。日本でもこの本だけは知っている人が多かったりしますね。
しかし、この本は1000ページ以上ある長大なもので、カジュアルに「ちょっとレイでも飛ばしてみっか~」という人間が買ってもどうしようもない可能性があります。この本もレンダラのソースコードを部分ごとに取り出して各トピックごとに解説を加えていく、というものですが、とにかく扱っている範囲・量が膨大なのでまったくの初心者がいきなりこの本を開いても全部読み終わるまでレンダラを作れない!ということになりかねません。
もちろん、「俺は1000ページくらい楽勝で読んで、レンダラを作ってやるぜ!」という意気込みの方は問題ありませんが、そうでもなければこの本「だけ」に頼ってレンダラを書くのは結構大変だと思います。
扱っている内容、量、質はまったく申し分なく、ありとあらゆるレイトレーシング・レンダラに関するテクニック・技術・理論が詰まっている非常に優れた本です。私もことあるごとに開いています。しかし、とりあえずレイトレ書いて絵を出したい!みたいな人は上で紹介したようなもう少しカジュアルな本を使いつつ、補助的にこの本を使う、という作戦が一番いいんじゃないかと思います。1000ページって結構多いよ。
Computer Graphics: Principles and Practice
Computer Graphics: Principles and Practice (3rd Edition)
- 作者: John F. Hughes,Andries van Dam,Morgan McGuire,David F. Sklar,James D. Foley,Steven K. Feiner,Kurt Akeley
- 出版社/メーカー: Addison-Wesley Professional
- 発売日: 2012/12/28
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これもかなり有名な本ですね。こちらはレイトレ本というよりかコンピュータグラフィックス全般について取り扱った本です。豊富なソースコードと実例に基づき、フルカラーの解説が非常にありがたい内容になっています。
カバーしている範囲は、単純なラスタライズみたいな話からジオメトリや信号処理、シェーディングから色彩に関する話など、コンピュータグラフィックスについてのあらゆる話、といった感じです。特にジオメトリにかんしては、専門書はどれもかなり難しくなるためこういう基礎についてちゃんと扱った本はかなり便利です。
レイトレについてももちろんカバーしており、パストレーシングやフォトンマッピングの実装に関する示唆を与えてくれます。ただし、あくまでCGの教科書的な本でありレイトレ専門の本ではないためやや物足りないと感じる人もいるかもしれません。
Production Rendering
Production Rendering: Design and Implementation
- 作者: Ian (Ed.) Stephenson
- 出版社/メーカー: Springer London
- 発売日: 2005/12/05
- メディア: Kindle版
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この本は名前の通り、プロダクション向けのレンダラについての本です。プロダクション向けのレンダラは、研究で作るレンダラや個人で作るレンダラとは違います。そこにはプロダクションのための、泥臭い機能や強く実用的な機能が多分に盛り込まれていきます。(わりとRenderMan系です)
扱っている範囲は、全体のアーキテクチャから、ジオメトリ、シェーディング、シェーダのコンパイラ設計、レイトレーシングに関するあれこれ、グローバルイルミネーション、画像のリコンストラクション、その他あらゆる実用的なテクニックなどなどです。
グローバルイルミネーションひとつとっても、イラディアンスキャッシュのような実用度の高い手法が取り上げられていますし、実用的なテクニックに至ってはpowやlogの高速化にまで話がいたります。
結局、プロダクションという出口がレイトレには必要だという側面もあります。こういう本を買ってみてプロダクションではどのようなレンダラが設計されているかに触れてみるの面白いかもしれません。
色彩工学
ここからはレイトレとは直接関係ないながらも、非常に重要な知識を与えてくれる本の紹介です。まず、色彩工学についての本です。
色彩工学とは、人間の色の知覚を工学的に取り扱う分野です。色の知覚は本来個人差が強い極めて心理的な要素ですが、しかしながら色というのは普遍的に溢れており工学的に取り扱う必要があります。色彩工学はこのような問題を解決するための学問であり、この本を読めば、我々が普段漠然とRGB値~とか言って取り扱っているものにも全て工学的背景が存在するということがわかることでしょう。
物理ベースのレイトレも、つまるところ光の物理シミュレーションなわけで、最終的な画像にする際には色彩工学の知識が大いに役に立つでしょう。
ヘクト光学1
最後は「光学」です。これは完全な教科書です。ヘクトの光学はいくつかありますが、我々はレイを飛ばしたいので幾何光学について扱った光学1が良いでしょう。
この本には光に関する物理的側面がきちんと解説されています。物理ベ~ス~などといいつつそもそもの光に関する取扱いや解説は漠然としていることが多いレイトレ業界ですが、この本はそういった疑問に対する答えを与えてくれること間違いなしです。
とりあえず一冊持っておくと「あれ、この現象って(物理的に)なんだっけ・・・」となったときにパッと調べることができて便利な本です。
まとめ
さて、レイトレ本書評10連発、いかがでしたでしょうか。自分が興味のある本、面白そうだと思った本をとりあえず読んでみるときっとレイを飛ばすのも捗ることになるでしょう。