穴日記

どうだ明るくなったろう

Precomputed Radiance Trasnferのメモ

マイクロソフト(当時)のSloan氏が発表したPrecomputed Radiance Trasnfer(事前計算済み放射輝度伝達)の簡易的なメモ。

リアルタイムに相互反射や無限遠からの環境マップによるImage Based Lightingを考慮したライティングを行うのはかなり大変である。これを解決する手法。

さて、IBLをリアルタイムに行うのはかなり大変である。あるピクセルの色を決定するには、そのピクセルに対応するシーン中のある点の色、すなわち放射輝度を決定しないといけない。これは、その点における以下のような積分を解く必要がある。(なおシーンは簡単のため全て完全拡散面としておく(PRTは完全拡散面以外も扱える))

L_o(x, \omega) = \frac{\rho(x)}{\pi} \int_{\Omega} L_i(x, s) \cos{\theta} d\omega(s)

ここで、\rhoは各点における反射率であり、その点における色や見え方を決定する。さて、右辺の積分を解くことによってL_oの値がもとまり、これは最終的にレンダリングされる画像の各ピクセル値に対応する。しかし、右辺の積分を解くと一口に言っても大変である。相互反射などはどうすればいいのか、といった問題や、そもそもどう積分を解くのか(モンテカルロ法を使うのか、使わないのか)といった問題がたくさんある。

今回は「リアルタイム」に「IBLの影響」を解きたいという状況だと仮定して、どんどん近似を入れていくことで問題を解くことにする。まず、相互反射を考慮しないことにする。すなわち、各点は全て光源から直接照明される以上に、ほかの影響は受けないと考える。(後でこの制限は取り払う)すると、上の式は以下のようになる。

L_o(x, \omega) = \frac{\rho(x)}{\pi} \int_{\Omega} L_e(s) V_x(s) \cos{\theta} d\omega(s)

ここで、L_eはある方向からくる放射輝度の関数であり、これが今回の光源すなわちImage Based Lightである。\cos{\theta}はその位置における法線と方向sの成す角度によるcosである。V_x(s)というのは可視関数で、位置xにおいて、方向sを見たとき、光源(環境マップ)が可視か、それとも別のオブジェクトに遮蔽されて不可視か、を表したものである。可視なら1、不可視なら0になる。
Image Based Lightingというのは、通常点光源、面光源などを扱うコンピュータグラフィックスにおいて、光源を以下のような環境マップによる画像ベースのものにする、というものである。


(Light Probe Image Gallery(http://www.pauldebevec.com/Probes/)より)

この画像の各ピクセルはある方向からくる放射輝度値を表現しており、上のL_eはこの値を得るためのものである。環境マップは、レンダリングしているシーンから十分に遠くに存在する巨大な球に張り付けられたテクスチャであると考えることもでき、それゆえにシーン中の位置に依存しない関数になっている。

ここで球面調和関数が出てくる。球面調和関数は完全直交関数系であり、球面上の任意の関数g(\theta, \phi) を展開できる、とウィキペディアにある。上で出てきた関数L_eV_xも、cos{\theta}も全て方向にのみ依存する関数である。よって、これらは全て球面調和関数として展開できる。この時、何次の項まで展開するかを指定することが出来、次数が多くなればそれだけ精度も増すが、データ量や計算負荷も大きくなる、トレードオフになる。

PRTにおいては、まず、レンダリングしたいデータの各頂点(等)においてV_xcos{\theta}を求める。これは離散的な結果になる場合がある。次に、これらの関数の積を求め、これを球面調和関数で表現し、頂点ごとに別途保存しておく。また、入力として与えたい光源である環境マップについても、球面調和関数として表現する。(これはランタイムで行ってもよい)

レンダリング時には、各頂点において、V_xcos{\theta}の積たる球面調和関数と光源である環境マップの球面調和関数を復元し、全方向について積分してやれば、それはそのまま\int_{\Omega} L_e(s) V_x(s) \cos{\theta} d\omega(s) 積分したことになり、望む結果が得られる。さらに、ここからが球面調和関数の優れたところだが、実際には具体的な関数を復元する必要も、全方向について積分する必要もなく、各係数について内積をとるとそれが最終的に求めたい積分の結果になる。これらの内積の処理は高速に行うことが出来る。光源である環境マップが変化しても、環境マップの球面調和関数としての表現さえ存在すれば、単なる内積によってリライティングができ、しかもそれはちゃんと可視判定を考慮したものとなっているため、高品質なシェーディングが期待できる。

相互反射

さて、以上の話は直接光に限定した話だったが、PRTは間接光を考慮したものに拡張することが出来る。ある点において、環境マップが可視の方向からくる光は、そのまま環境マップの値だが、不可視の方向からくる光は別の場所で一度反射した光、すなわち間接光である。まず、各頂点においてV_xcos{\theta}を計算し、球面調和関数を求める。次に、各頂点から直接光の来ない方向、すなわち不可視の方向にレイをとばし、別のオブジェクトとの交点yを求める。

yが求まったら、その点の位置において同様にして球面調和関数を求める。この球面調和関数と環境マップによって計算される値とは、つまりyからxへと反射される光に他ならない。そこで、yにおける球面調和関数の値について、yにおける反射率と積分の際のその方向への立体角の分をスケーリングしてxにおける球面調和関数に加算してやる。すると、いざレンダリングするときに、L_o = M_x \cdot L_eという関係だったものが、L_o = (M_x + K_y M_y + ... ) \cdot L_eというものになり、xにおいて直接反射する光と、別の点yなどを経由して反射する光の両方が考慮された結果が得られる。
(ここでL_eM_xなどは球面調和関数の係数として表現された各項で、K_yはスケーリング係数)